心理学はわりと新しい学問でしょう。昔から心理学のようなことは行われていても、特別個別に学問として扱われていたわけではないのです。たとえば、生理学からの発展としての心理学があります。
脳を損傷すると精神機能に異変が生じる事から、「脳が感情や思考などの精神現象を生み出す中枢であるとして、脳を構成する神経系を調べる事で精神現象を解明できる可能性がある」との立場が生まれました。
この発想自体は古くはデカルトが心身合一の問題として言及していますが、実験的に調べられるようになったのは19世紀以降のことです。
19世紀のブローカやウェルニッケらの失語症と脳損傷の関係調査により、言語中枢とされる脳部位言語野が推定されました。この研究により、言語を扱う精神機能が脳という生理的土台によって生じることが明らかにされました。
脳損傷と精神機能失調の関係調査は20世紀初頭の第一次世界大戦以降、戦争で脳を損傷した患者の治療の過程で大きく進みました。1960年代からはCTにより脳血管障害患者の脳を非侵襲的に調べられるようになり、さらに進展したようです。
イワン・パブロフは1902年に唾液腺の研究過程で俗にパブロフの犬とよばれる条件反射を発見しました。この研究を嚆矢として、正常な動物における生理的現象と精神現象の関係が論じられるようになった。この分野はパブロフの犬のような巨視的なものから薬物投与、神経細胞の分子生物学的解析など様々なものがあるが、全体的には神経細胞の振る舞いを調べるものが多いです。
1960-70年代にかけて急速に進展した視覚伝導路の神経細胞の特性研究は知覚心理学に重大な影響を与えました。
両者は視覚刺激を見せて反応をとるという共通の手法を持ち、反応を見る対象が神経細胞という微視的なものか、ヒトなどの動物全体という巨視的なものか、という点で違うと見ることもできます。
また海馬の神経細胞で発見された長期増強などのシナプス可塑性は、記憶の生理的基盤であると期待され、認知心理学に少なからぬ影響を与えました。
1980年代以降、神経細胞の活動を観測する脳機能イメージングの手法が増えた結果、脳機能局在論による神経機構の解明が試みられており、少なからず成功を収めています。ただし、神経の機能の説明が精神物理学の知見の範囲を出ず、「精神現象を十分説明できる」と表現するにはまだ程遠い状態です。
生理学と心理学の関係は、物理現象から精神現象が生起するのかという心身問題を常にはらんでいて、哲学上の重大な未解決問題となっています。神経機構の数理的解析は情報工学に影響を与えています。
また、心理学が社会的に注目されるようになるにつれ、研究成果に基づかない右脳・左脳論、ゲーム脳など擬似科学が出現してしまいました。